スクリーン~永遠の序幕~解説3(ネタバレあり)

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※注意

前記事に続き、本記事はネタバレを含んでいます。

 

スクリーン~永遠の序幕~解説3

お問い合わせから頂きました中で最も多かった質問に回答させていただきます。

 

質問 

プロローグ2の終盤で有希はどうして「終わりにしましょ」と言えるのでしょうか?有希も仮想空間の世界だと気づいているのでしょうか?末文にもありますが、現実世界ではないことに気が付いたのは蒼斗だけということになっています。まるで有希も気づいているかのような発言になっていて理解できません。

 

回答の前に

私なりな解釈と共に山田健太郎先生に質問させていただきました。その上でお返事を頂きましたので間違いない回答をお届けできます。

 

回答(順を追って説明していきます)

重要な前提

外からのプログラムの組み方次第仮想空間内の出来事はいとも簡単に変わるのです。

 

例えば、プロローグ2の蒼斗は自身の作った仮想空間の世界について「2024回目のシミュレーションを行い、初めて犠牲者が出なかった」と言っています。つまり、2023回までは犠牲者がいることになります。

 

出来事

プロローグ2の終盤で、奇しくも蒼斗の作った仮想空間の世界と似たシチュエーションが起きます。これが出来事です。

有希が崖から落ちそうになり、その腕を掴むシーンです。

 

多くの人の感じ方

有希の「終わりにしましょ」という一文が読者に与えるもの。確かに、まるで有希もプロローグ2の世界が仮想空間の世界だと気づいたかのように感じます。

 

そして、これこそが読み手である我々の人間らしさになります。

 

ちょっと混乱してきますよね。

 

改めてになりますが、有希は気づいていません。読み手である我々がそう結び付けてしまうだけです。

 

 

説明

解説2と同文ですが、KTRの発言に以下のものがあります。

「人は、まさに今みたいに法則性を予感します」

「そうやって勝手に予感し、関連を感じ取ります」

 

今まで理解してきたことを使いたくなるのが我々人間です。裏を返せば、今回のような質問が出てくること自体が山田健太郎先生が願っていることであるとも言えますね。

 

まとめ

有希は自身の世界が仮想空間であることに気づいていない。加えて、崖下が岩肌であること。以上を考慮すると、プロローグ2の終盤では有希は本当に自殺を試みていることになります。

 

「終わりにしましょ」との発言が、蒼斗との関係についてなのか、人生についてなのか具体的な言及は無く何を終わりにしようとしているのか明確ではありません。

 

なぜ有希は自殺を試みたのか

仮想空間の世界は現実世界の組み方(設定)により影響を直に受けます。大前提を組み換えてしまえば、いきなり主要人物が自殺を試みてしまうこともあるでしょう。

 

そして、プロローグ2の蒼斗はその何回目かのシミュレーションの世界に居たに過ぎません。

 

ゲームを好む方なら分かりやすいと思いますが、エンディングが複数あるRPGを想像すると良いと思います。1つのバッドエンドのようなものです。

 

もう1歩踏み込んで

プロローグ1や本文(蒼斗の作った仮想空間の世界)とプロローグ2(現実世界の作った仮想空間の世界)での描写を見比べてください

異なるのは、「崖下が岩肌」である箇所だけではありません

 

一例抜粋

―プロローグ1や本文―

カモメが一羽横切る間を空けて有希が振り返る。そしてさらっとフルートみたいに言った。

「別れて欲しい」

 

―プロローグ2―

カモメが一羽横切る間を空けて有希が振り返った。そして壊れたフルートを無理やり吹くように言う。

「終わりにしましょ」

 

このように、セリフ以外にも同一ではない描写があります。

セリフだけ抜き取るのではなく、付近を見比べることでそれぞれは独立しているシーンと分かります。

 

正直に申し上げますと、そんなの分かるか!!って感じもあるのも本心です・・・笑。言葉は魔法ですよね。楽しかったです。

 

追記

まさか本家のビビアミより反響が大きいとは思いませんでした。

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スクリーン~永遠の序幕~解説1(ネタバレあり)

※注意

前記事に続き、本記事はネタバレを含んでいます。

 

そしてKTRとは

KTRはものすごく重要な役割を果たすのですが、出てくるシーンで微妙に異なります。

 

プロローグ1とスクリーン(本文)内でのKTR

国家主導に作られた犯罪撲滅AIです。

被害を最小レベルに抑えて解決するために各個に独自のアドバイスをします。

これに則り亮が蒼斗と自身の両親を救うため蒼斗を狙ったわけです。

 

亮だけはKTRにコンタクトをとれていたイメージです。

 

プロローグ2でのKTR

犯罪撲滅AIなのですが、アップデートにより蒼斗と会話ができるようになります。重要なこととして、プロローグ2の中のKTRはプロローグ2の世界は仮想空間の世界だと認識しています。

 

そして、蒼斗にこの世界は実世界ではないことを告げようとするのです。

 

KTRの主張

私はもうKTRの主張というより山田健太郎先生の主張としか感じられなくなりました。

 

蒼斗との会話で露骨にあらわれますが、AIの危険性を指摘する描写が多く出てきます。

 

「人は、まさに今みたいに法則性を予感します」

「そうやって勝手に予感し、関連を感じ取ります」

このあたりでしょうか。

AIが人間の感情を把握できるようになると、こういったことすら感じ取られてしまうのです。

 

「人を完全に支配するまでもう少し」

KTRの第一声になるのですが、これにつながると思います。

 

物語内での主張

KTRにとっては仮想空間の世界で様々な実験をすることも犯罪と認識しています。理由は仮想空間の世界で生きる者も人間同様の感情を持っているからです。

 

プロローグ2の解説

蒼斗は自分の世界、自分自身が仮想空間の世界だと悟りました。そして、現実世界の『誰か』に向けて自分の世界を消してほしくないことを懇願します。

 

その後有希に会い、奇しくか運命か自分の作った仮想空間の世界同様のシチュエーション(有希の手を掴み崖から引き揚げようとする)になります。

 

・崖から引き揚げることは無理そうである。

・落ちた場合、崖下は海ではなく有希は岩に直撃する。

 

そんな姿を見たくない。蒼斗は実世界の人間にプロローグ2の世界(すなわち自分の世界)を消すことを実世界の人間にお願いするのです。

 

P268の解説(山田健太郎先生の哲学)

「『我思う故に我あり』を崩した唯一の存在は、実世界からの無情なクリックにより強烈なノイズへと誘われた」

この一文に山田健太郎先生の強いメッセージが込められています。

 

「我思う故に我あり」は有名な言葉です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/我思う、ゆえに我あり

 

そして、我思う故に我ありを崩した唯一の存在とは蒼斗のことです。

プロローグ2の蒼斗は、自分の世界が仮想空間の世界だと知りました。

 

「本当に現実なのかと考えること自体、その考え自体が疑いようのない現実である」が今までの通説でした。

 

しかし、今では技術が進みAIを作り出せるようになりました。AIも考えるようになります。

つまり「考える、思う」だけでは現実かどうかを証明できるものでは無くなったと言っているのです。

 

この本が難解な理由

一言で言うと山田健太郎先生の哲学がプロローグ2に盛り込まれているからです。謎解き&提唱はミステリーの域を越えています。

 

Amazonレビューにもありますが、読むたびに新発見があるでしょう。

山田健太郎先生の哲学を理解してからもう一度読むことをお勧めします。

 

前記事でも触れましたが、プロローグ1とスクリーン~永遠の序幕~(本文)は2024回目のシミュレーションという扱いです。まるで今の2024年が実世界では無いと訴えています。

この世界を生んだ世界があり、その世界も仮想の世界だということです。

 

まとめ

ミステリーには付き物である殺人事件や血のようなものは出てきません。同時に性的な描写もありませんし、家族や友達などこの世について話し合う良いきっかけになる物語です。大人になってから読み返しても新発見のあるメッセージ性の強い作品でした。

 

追記

スクリーン~永遠の序幕~解説3(ネタバレあり)

スクリーン~永遠の序幕~解説1(ネタバレあり)

スクリーン~永遠の序幕~解説

できるだけ詳細に書いていきますので順を追って確認してみてください。

 

※注意

※今記事、次記事ともにネタバレを含んでいます。

 

難しく感じ始める箇所

「P225 真実が生んだもの」以降となります。

ここまでは気楽に読んで良いでしょう。しかし、これ自体が一つの仕掛けとなります。

 

難しく感じる理由①(解釈レベルの変化)

物語としてP224までは小学生~中学生で十分理解できる内容です。

しかし、P225から突然中学3年レベルの内容となります。

更にはP264のプロローグ2からは高校生レベルまで上がるかもしれません。

 

この解釈レベルの変化が混乱を招く要因と考えます。

 

「おいおい、理解できなかった自分は高校生以下の知能しかないのか?」と怒らないでください。

 

マジックみたいなものです。

最初から同レベルにて記載されていた場合、恐らく誰もが分かるはずです。

 

更には、プロローグ2が理解できなくても小説としては十分楽しめる作品です。つまり、ここにも秘められたトリックがあるのです。

 

難しく感じる理由②(謎解きの重ね)

謎解きが幾重にもかかっています。

 

P224までに判明したこと

親友である亮が蒼斗を狙っていた

 

このインパクトが残る読者が多いと思います。この先はこの内容を前提に読み進めると分かにりくくなります。

要は、親友である亮は最後の最後まで親友だったのです。

 

P225以降

分かりにくくなる要素の一つとして、兄の博人と同じ論理が異なる展開で使われていることにあります。

 

博人は蒼斗を救うために、蒼斗を誤認逮捕させました。

同様、亮は自分の親である山崎蒼斗を救うために蒼斗を狙ったのです。

 

難しく感じる理由③(用語)

・山崎HYC

会社名であるもののHYCに意味をなしていません。

 

・KTR(※1)

国家犯罪撲滅AIですがKTRという言葉には意味をなしていません。

国家犯罪撲滅AIとは国家が作った犯罪撲滅AIであり、国家犯罪ではないです。

※1 KTRは重要な存在であるため大混乱を引き起こす要素の一つになります(後で解説)

 

・TEIYA設計

山崎正樹が開発したという装置。

この装置を作ったことで山崎の会社は国に潰されそうになります。

このTEIYAという言葉に意味をなしていません。

 

このように、山田健太郎先生のスクリーンには造語が多発します。

 

意味をなしていないキーワードを固有名詞として出すため、理解を妨げる要素になります。しかし、KTRは物語の全てでもあります。

 

ミステリー小説+α

拾うべきものと拾わないべきものを並列しているため、難しく感じていまいます。この物語はミステリー小説でありながら山田健太郎先生のメッセージが詰め込まれているのです。

 

これによりネット社会の危険性を表現していて「取捨選択を間違えてはいけない」という山田健太郎先生の訴えが含まれております。

 

紛らわしいと思うかもしれませんが、プロローグ2を理解するためには「今」「現在」を疑うということが重要になります。

 

難しく感じる理由④(物語構成)

目次が非常に少ないことに気づいたでしょうか?

 

登場人物・・・・・・・・・・・・4

プロローグ1・・・・・・・・・・16

スクリーン~永遠の序幕~・・・・10

プロローグ2・・・・・・・・・・264

 

と、たったの4つ。

 

「プロローグ1」と「スクリーン~永遠の序幕~」は現実世界ではなく蒼斗が作った仮想空間の話(2024回目のシミュレーション)です。

ここでは我々の世界がまるでシミュレーションであるかのように、2024回目のシミュレーションと描かれています。

 

そのためプロローグ2は現実世界の話(※2)・・・と解釈してしまいがちですが、これは間違いです。

 

プロローグ2の説明

「プロローグ2」でさえも現実世界の話ではありません

 

どこかに現実世界があり、その現実世界で作られた仮想空間の世界が「プロローグ2」の世界となります。

 

構成補足

「プロローグ2」の世界に蒼斗や有希が登場に直弥の名前などが出てきます。これより、蒼斗の作った仮想空間(プロローグ1や本文)は自分の世界(プロローグ2)をモチーフに仮想空間を作っていることが分かります。

 

少し長くなりましたので、次の記事に続きを書きます。

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